「生活保護費」と「労働者の最低賃金」や「年金」との逆転現象が、働き盛りの若者やまじめに長年年金を払ってきた高齢者の間では、生活保護受給者や制度に対して「こんな不公平感はありえない」という遣り切れない思いが渦巻いています。
「最低賃金」とは…
最低賃金法に基づき、国が都道府県ごとに定めている賃金の最低限度の時給です。
その最低限度の賃金で、生活保護を受給せずにコツコツ働き生活している方もいる中、生活保護受給者のほうが多い生活保護費をもらっているといった「逆転現象」地域が拡大しています。
生活保護費が最低賃金を上回る「逆転現象」とは…
生活保護費と最低賃金で働く方の可処分所得をそれぞれ時給に換算した場合、生活保護費のほうが最低賃金で働く方の可処分所得を上回る(乖離する)現象です。
※可処分所得・・労働の対価として得た給与やボーナスなどの個人所得から、支払い義務のある税金や社会保険料などを差し引いた、残りの手取り収入のこと。
2011年度の地域別最低賃金引き上げ後では、「逆転現象」は北海道、宮城県、神奈川県のみで生じていました。しかし、2012年度では、青森県や千葉県など11都道府県に拡大したことが明らかとなっています。
(2012年7月の厚生労働省、中央最低賃金審議会の「目安に関する小委員会」における「生活保護と最低賃金」と題した資料による。)
厚生労働省が示した資料によると…
北海道(乖離額30円)、青森県(同5円)、宮城県(同19円)、埼玉県(同12円)、千葉県(同5円)、東京都(同20円)、神奈川県(同18円)、京都府(同8円)、大阪府(同15円)、兵庫県(同10円)、広島県(同12円)の11都道府県に拡大しているとされています。
この「生活保護費と最低賃金の逆転現象」への対策として、平成24年10月に順次、最低賃金の引き上げが行われています。
しかし、大阪、東京、北海道などでは来年度以降に逆転現象問題の解消は先送りにされているようです。
参考までに、平成24年10月の地域別最低賃金改定状況を地域抜粋で見てみると、次のようになっています。
- 栃木県 697円 →705円
- 茨城県 690円 →699円
- 千葉県 744円 →756円
- 神奈川県 818円 →849円
- 福島県 658円 →664円
逆転現象がある県も辛うじて逆転までは達していない県も含め、上記のような少ない最低賃金で働き、その中から更に年金や保険料を払いその残りで生活している方に比べると、最低賃金を上回る生活保護費(生活扶助)を受給し、その上医療費や介護費は無料などという条件のもとで生活している方のほうが裕福といったことが現実に起きています。
それはまじめに働く方にとっては不均衡の何ものでもありません。
通常は退職して自力で収入を得ることが難しくなった高齢者が、生活保護を受給することが多いのですが、近年では比較的若い世代で失業を理由に生活保護を受給し、少ない賃金のアルバイトやパートで働くなら「働かないで生活保護を受給して暮らしたほうが得」という考えを生み、結果として生活保護受給者の増加を招く一因になっていると言えます。
本来、「入りやすく出やすい」を目指した生活保護制度の設計は、今や「入りやすく出たくない」といった「もらい得」という”モラル・ハザード”(倫理の欠如)を招いてしまっているのです。
それでも、生活保護に頼ることなく、社会の一員としてコツコツまじめに働くことを尊いと考え、生活保護費よりも少ない年収で生活している方ももちろんいます。
そういった「収入が少なく生活が困窮していても、自力で働き生きてこその価値」を大切にし一生懸命働き頑張っているモラルの高い方々が、生活保護費の逆転現象のように納得のいかないような事態は打破しなければなりません。
生活保護の不正受給は論外ですが、不正とまではいかなくても「生活保護費のもらい得」を何とも思わず保護費を受給しのうのうと暮らしている、そんな不公平が起こらないように最低賃金の引き上げとはまた別に、早急な生活保護制度の抜本的な見直しに期待したいところです。